Skip to content

日本語は通訳不可能なのか

Date: 2019

  1. はじめに

世界にはさまざまな言語がある。異なる言語を操る同士間で意思疎通するために、通訳が必要である。通訳とは、一つの言語を別の言語に言い換えることである。日本語の場合といえば、外国語を日本語へ、または日本語を外国語へと二通りの形式がある。しかし、近年の日本語は外国語を意味で訳するのではなく、直接に音訳しカタカナ語にする場合が多い。本論は、二通りの形式それぞれにおける問題と事例及びそれに対して行われた解決策について考察し、最後に現状と事例を取り上げ、この現象を検討するのである。

  1. 外国語から日本語へ

まず外国語から日本語へという場面における問題について述べる。現代社会では国際間交流及び情報交換が盛んになり、そのうえ国民の操れる言語は一つに限らず、少なくとも中学校から英語を学習することになる。そのため、在来の日本語以外の外国語から単語や概念などが輸入される。それが外来語である。例えば在来の「概念」ではなく、「コンセプト」を言う・書くようになることがよく見られる。

文部科学省の国語審議会は2000年に「国際社会に対応する日本語の在り方」という答申を公表した。その中で上述の問題について言及している。以下一部引用。

Text Only
1
2
3
4
既に日本語として定着している外来語も多く存在する…
しかし、近年では、外国との間の人・物・情報の交流の増大や、諸分野における国際化の進展等に伴い、日本語の中での外来語・外国語の使用が目立って増大…

日本語によるコミュニケーションを阻害し、社会的な情報の共有を妨げるおそれがある…外国人の日本語理解の障害となる…

外来語の増加に対して、国語審議会は意思疎通を阻害する弊害があるという見解を示している。日本社会内だけでなく、日本と国際社会間の意思疎通にも害しているという。

その後、国立国語研究所は外来語委員会を発足させ、外来語を日本語に置換する提案をした。例えば、「ケーススタディー」を「事例研究」に、「デイサービス」を「日帰り介護」にするなど176語に対して置換案を提案した。つまり、在来の日本語では完全に対応できる概念が、カタカナ語で表されてきたのである。

3. 日本語から外来語へ

通訳は外国語から日本語へという一方通行ではなく、日本語から外国語へ訳する場面も必要である。例えば、地図や看板などの多言語対応の必要性がますます増える。従来の地図が日本人以外には読めないという問題意識は近年現れ始め、外国人にも読めるようにする検討が最近現れたのである。

外国人にわかりやすい地図表現検討会は2015年に地図の英語表記について提案をした。従来「駅」を「Eki」に、「山」を「Yama」に、「川」を「Kawa」に音訳して書きがちな地名を、「Station」「Mountain」「River」などに翻訳すると提唱しているのである。つまり、日本語から外来語へ音訳する際に、音訳ではなく意訳の試みが始めたのである。

4. 現状と実例

以上に見てきたように、より意思疎通できるよう政府や民間の取り組みが始めた。しかし、依然として問題が噴出する。2019年、国内の防災教育啓発のためにヤフージャパンが新たなサイトを開設した。その日本語版では「防災ダイバーシティ」と英語のわかる人なら難なく分かるが、問題は英語版の「BOSAI DIVERSITY」である。

Japanese Version English Version
BOSAI DIVERSITY in Japanese BOSAI DIVERSITY in English

「防災」を音訳のまま「BOSAI」にするところで、意味が伝わらない。Cambridge DicitionaryとOxford Dictionaryで調べた結果、「Bosai」という英単語は現存しないのである。一方、「盆栽」の「Bonsai」が世界中に知れ渡っているため、「BONSAI DIVERSAITY」と誤読させる可能性が非常に大きいと考えられる。ここで防災の情報と知識の伝達を阻害することが明らかである。

  1. おわりに

以上に考察した結果、日本語の通訳は可能ではあるが、取り組みが非常に不十分であることは明らかである。図2で示したように、通訳するにあたって意訳ではなく安易に音訳する場合が非常に多く、その結果、相互の意思不疎通の現状は通訳の本人に問題意識を持たずに放置されている。真の意思疎通を図るために、自身及び他者の文化を理解することが重要である。すなわち、外国語の表現を在来の表現で表し、また、日本語を翻訳する際に外国語で通じる表現で翻訳することを心かけなければならないのである。

  1. 参考文献

外国人にわかりやすい地図表現検討会(2015)「地名の英語表記方法及び外国人にわかりやすい地図記号について―外国人にわかりやすい地図表現検討会報告書―」.

国立国語研究所「外来語」委員会(2006)「「外来語」言い換え提案―分かりにくい外来語を分かりやすくするための言葉遣いの工夫―」pp,1-3,54,102.

文部科学省・国語審議会(2000)「三.国際化に伴うその他の日本語の問題」『国際社会に対応する日本語の在り方』.

ヤフージャパン(2019)「防災ダイバーシティ」(https://bosaidiversity.yahoo.co.jp/)(2019年6月21日閲覧).


Last update: 2023-06-28
Created: 2023-06-28